SYCL とインテル® oneMKL による定量金融の高速化

インテル® oneMKL金融

この記事は、The Parallel Universe Magazine 58 号に掲載されている「Accelerate Quantitative Finance with SYCL* and oneMKL」の日本語参考訳です。原文は更新される可能性があります。原文と翻訳文の内容が異なる場合は原文を優先してください。


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金融市場では、さまざまな証券のリスクの分析、予測、評価に数学モデルを利用し、大規模データセットに適用しています。一般的な例としては、オプションなどのデリバティブ証券の価格決定や、ポートフォリオ管理におけるリスク管理が挙げられます。金融工学は、定量金融の数学的理論と計算シミュレーションを組み合わせて、価格決定、取引、ヘッジ、その他の投資判断を行います。

これらの計算には以下が使用されます。

  • 微分方程式の数値解
  • 多数のランダムシードを用いたモンテカルロ・シミュレーションに基づく証券価格決定シミュレーション

株式、株価指数、コモディティー、債券、通貨、転換社債契約、さらにはスワップや先物といったデリバティブなど、多くの金融商品はオプション市場に依存し、その影響を受けます。そのため、金融市場にとって、オプション価格決定の挙動を確実にモデル化し、ほかの資産クラスへの影響を適切に理解することが極めて重要です。

ギリシャ指標 (リスク・パラメーター)

ギリシャ指標は、オプションやその他の資産クラスのリスク・プロファイルの評価基準となる、オプションに関連する一連のリスク・パラメーターであり、それぞれのリスクはギリシャ記号で表されます。追跡されるリスクは多岐にわたり、最も一般的なものは以下のとおりです。

  • シータ (Theta): 時間経過に対するオプション価格の減衰、または感応度
  • ロー (Rho): 金利変動に対するオプション価格の感応度
  • デルタ (Delta): 原資産価格の変動に対するオプション価格の感応度
  • ガンマ (Gamma): オプションのデルタと原資産価格の変動率に対するオプション価格の 2 次感応度
  • ベガ (ニュー) (Vega (nu)): 原資産価格の変動率に対するオプション価格の感応度

ギリシャ指標の微分方程式の数値解は、平方根、指数関数、対数、正規乱数生成、相関乱数生成、パス生成など、さまざまな数学関数に依存します。

インテル® oneAPI マス・カーネル・ライブラリー (インテル® oneMKL) は、C、Fortran、SYCL API を用いたこれらの計算をサポートします。マルチアーキテクチャー GPU アクセラレーター・オフロードを活用するオープンソース、オープン・スタンダード・ベースの実装には、Unified Acceleration Foundations (UXL) のオープンソースの oneAPI マス・ライブラリー (oneMath) (英語) プロジェクトの SYCL API を使用できます。

シミュレーションと微分方程式の数値解を組み合わせた計算集約的な反復プロセスにより、金融資産のリスクモデリングは、SYCL のような高度な並列プログラミング・モデルの理想的な候補となります。

市場評価に用いられるさまざまな予測モデルと、インテル® データセンター GPU マックス・シリーズや最新世代のインテル® Core™ Ultra モバイル・プロセッサーの統合 GPU などの、高度に並列化された計算エンジン上で最適化された乱数生成器 (RNG または RAND) を実行するメリットについて詳しく見ていきましょう。

金融における乱数生成とシミュレーション

現代の定量金融において最も一般的なシミュレーション・モデルは以下のとおりです。

  • 二項式オプション価格モデル (BOPM)
  • ブラック-ショールズ・モデル (BSM)
  • ヘストンモデル
  • ヨーロピアン・モンテカルロ・オプション・モデル (EMC)
  • アメリカン・モンテカルロ・オプション・モデル (AMC)

それぞれに目的があります。

1. 二項式オプション価格モデル (BOPM)

このモデルは、一般化可能な数値手法を用いてオプションを評価します。このモデルは、時間の経過とともに変化する価格の「離散時間」 (格子ベース) 決定木を使用します。このアプローチは、オプションが満期日前であっても、いつでも権利行使できる場合に有効です。投資リスクは、将来の任意の時点において計算する必要があります。BOPM は、特定の時点ではなく、時間経過に伴う投資の変動に基づいているため、米国株式市場で取引されるオプションでよく使用されています。

二項式オプション価格決定は、ブラック-ショールズなどの他の代替手法よりも計算時間が長くなります。さらに、市場条件パラメーターの数が多い場合にはうまく機能しません。しかし、依存関係が単純なオプションでは、特に長期投資において正確な結果が得られるため頻繁に使用されます。

2. ブラック-ショールズ・モデル (BSM)

ブラック-ショールズは、株式や先物契約の価格が、一定のドリフトとボラティリティーを伴うランダムウォークに従う対数正規分布に従うと仮定します。この仮定により、ブラック-ショールズはオプション契約の価格決定に最適なモデルであると一般的に考えられています。ブラック-ショールズ方程式には、ボラティリティー、原資産価格、オプションの権利行使価格、オプションの満期までの期間、無リスク金利、そしてオプションの種類 (コールまたはプット) の 6 つの変数が必要です。注意点としては、実際の市場では、BSM リスク分布予測よりも、高リスクの下落が頻繁に発生する傾向があることです。

3. ヘストンモデル

ヘストンモデルは、金融資産のボラティリティーの経時的変化を含めることで、BSM の欠点に対処します。このモデルでは、資産評価とボラティリティーは一定でも決定論的でもなく、確率的であると仮定します。ヘストンモデルの核となる偏微分方程式は、入力パラメーターを介した多数の連続的ランダムウォークのモンテカルロ・シミュレーションによって計算されます。ヘストンモデルは偏微分方程式であり、正確に解くことはできません。このモデルをオプションの価格決定に使用するには、数学的な近似との併用が必要です。このアプローチのアメリカンオプションとヨーロピアン・オプションのモデルへの適用については、次のセクションで説明します。

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