続グラフ・アナリティクス・ベンチマークの冒険

その他

この記事は、インテル® デベロッパー・ゾーンに公開されている「More Adventures in Graph Analytics Benchmarking」(https://software.intel.com/en-us/blogs/2019/12/16/more-adventures-in-graph-analytics-benchmarking) の日本語参考訳です。


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Louvain アルゴリズムのベンチマーク

以前の 2 つの記事、グラフ・アナリティクス・パフォーマンスの測定 (英語) とグラフ・アナリティクス・ベンチマークの冒険をお読みになった方は、私が最近グラフ・アナリティクス・ベンチマークの話題を多く取り上げていることをご存じでしょう。簡単に実行でき、複数のグラフ・アルゴリズムとトポロジーをテストして、グラフ・アナリティクス全体を網羅していること、また包括的、客観的、かつ再現可能な結果が得られること (最も重要です) から、カリフォルニア大学バークレー校の GAP Benchmark Suite (英語) を使用していることもご承知かもしれません。しかし、GAP はソーシャル・ネットワークでのコミュニティー検出に対応していません。

大規模ネットワークでコミュニティーを検出する Louvain アルゴリズム[1] は、このギャップを埋める可能性のある候補です。第 1 に、これは広く研究されているアプローチです。Google Scholar* によると、このアルゴリズムに関する記事の引用数は、2019 年 11 月時点で 1 万を超えています。第 2 に、このアルゴリズムは大規模なグラフ向けに設計されています。オリジナルの記事では、1.18 億個の頂点と10 億個以上のエッジを持つウェブグラフを解析しています。この記事では、Louvain アルゴリズムのベンチマークについて考察します。

最近、私は RAPIDS* cuGraph と NetworkX の Louvain パフォーマンスの比較を目にする機会がありました (図 1)。NetworkX は、ネットワーク解析向けの包括的なライブラリーで、ネットワーク研究の中でも最も難しい分野、例えば Triadic Census などもカバーしています。非常に小さなグラフを扱う場合に適したライブラリーです。NetworkX は純粋な Python* ライブラリーであるため、パフォーマンスはあまりよくありません。スピードアップを誇張することが目的でなければ、cuGraph のような最適化されたライブラリーと、NetworkX のような最適化されていないライブラリーを比較することは無意味です。しかし、このグラフにはさらに大きな問題があります。図 1出典元の記事 (英語) は、cuGraph と NetworkX の結果が同じであったかどうかを明らかにしていません。そこで、私は実際に自分で比較してみることにしました。


図 1. いくつかの小さなグラフでの cuGraph と NetworkX の Louvain クラスタリング・パフォーマンスの比較 (出典: https://medium.com/rapids-ai/rapids-cugraph-1ab2d9a39ec6 (英語))

検証には、Python* よりも優れたパフォーマンスをもたらすと考えられる C++ で記述された Louvain アルゴリズムのリファレンス実装 (英語) を使用しました (2019 年 11 月にダウンロード)[2]。以下のコマンドを使用して、このパッケージをコンパイルしました。

これにより、convert (未処理のエッジリストを効率良いバイナリー形式に変換します)、louvain (モジュール方式の最適化を使用してグラフをコミュニティーに分割します[3])、および hierarchy (コミュニティーの構造を表示します) の 3 つの実行ファイルが生成されました。以前の GAP の実験と同様に、GNU* C++ コンパイラーの標準ビルドを使用しました。ソースコードは変更せずにそのまま使用し、オリジナルの Makefile のコンパイラー・オプションを使用しました。

(louvain-generic.tar.gz に含まれる) README.txt ファイルの手順に従って、入力データを準備し、Louvain リファレンス実装を実行しました。

図 1 のグラフは、SuiteSparse Matrix Collection (英語) からダウンロードしてエッジリストに変換したものです。これらは小さなグラフです (表 1)。最も大きいものでも 170 万個の頂点しかありません。


表 1. 図 1 で使用されている小さなグラフのサイズ

一方、GAP Benchmark Suite は、最も小さなグラフでも 239 万個の頂点があり、最も大きなグラフでは 1342 万個の頂点があります。オリジナルの記事では、1.18 億個の頂点を持つグラフで Louvain アルゴリズムがテストされています。図 1 のグラフは、おそらく 2 つの理由で選択されたと考えられます。1 つ目は、cuGraph の Louvain 実装は複数の GPU のメモリーを使用できないため、単一の NVIDIA* Tesla* V100 のメモリーに収まる小さなグラフでなければなりません。2 つ目は、NetworkX と比較しているため、大きなグラフでは純粋な Python* ライブラリーの計算時間が非常に長くなります。

パフォーマンスについて詳しく見る前に、正確さについて考えてみましょう。出典元の記事 (英語) は、NetworkX と cuGraph の結果が同じであったかどうかには触れず、図 1 のパフォーマンス・データのみを示しています。それぞれの Louvain 実装は、同じコミュニティーを検出したのでしょうか? それぞれの Louvain 実装によって検出されたコミュニティーの数は大きく異なります (表 2)。実装ごとに内部ヒューリスティックが異なる可能性があるため、多少のばらつきは想定されます。しかし、表 2 ではパフォーマンスの比較が疑わしくなるほど大きな差も見られます。例えば、1 つの実装はコミュニティーのセットに収束するのが早すぎるように見受けられます。これらのグラフでは何が正しい Louvain 計算結果なのでしょうか? GAP やその他の標準ベンチマークの主な利点の 1 つは、テストの正しい結果が定義されることです。そうでなければ、同一条件でのパフォーマンスの比較は困難、あるいは不可能です。


表 2. 各 Louvain 実装で検出されたコミュニティーの数の相違。cuGraph[4] のテストは、AWS* EC2* p3.16xlarge インスタンスを使用して[5]、単一の V100 で実行されました。NetworkX と Louvain リファレンス実装は、単一のインテル® Xeon® プロセッサーで実行されました[6]

cuGraph と Louvain アルゴリズムのシーケンシャルな C++ リファレンス実装を比較すると、パフォーマンスの差は大幅に縮まります (図 2)。いくつかの簡単な変更を加えることで、この差をさらに縮めることができると考えられます。例えば、インテル® コンパイラーを使用して積極的な最適化とベクトル化を有効にしたり、OpenMP* を使用してリファレンス実装を並列化したりできます。しかし、正しい結果が判明するまで、私はその作業に取り掛かる気はありません。現時点では、cuGraph のスピードアップが図 1 で報告された 200 倍~ 2,100 倍とはかけ離れた 1.4 倍~ 10 倍であることが明らかになり、これらのパフォーマンス比較に問題があることが分かったことに満足しています。ほとんどの「その場しのぎの」未定義のベンチマークと同様に、結果をうのみにすることはできません。


図 2. いくつかの小さなグラフでの Louvain リファレンス実装と cuGraph のパフォーマンスの比較[7]。計算時間 (秒単位、値が低いほうが良い) のみが測定され、グラフの読み込みと設定にかかった時間は無視されています。cuGraph テストは、AWS* EC2* p3.16xlarge インスタンスを使用して単一の V100 で実行されました。Louvain リファレンス実装は、単一のインテル® Xeon® プロセッサーで実行されました。

正しい結果を定義する

正しい結果を定義するため、良く知られている Zachary[8] Karate Club (英語) ソーシャル・ネットワークで各 Louvain 実装を実行しました。このグラフは、すべての実装が同じコミュニティーを生成するかどうかを手動で確認できるぐらい小さいです (34 個の頂点と 78 個のエッジしかありません)。NetworkX、cuGraph、Louvain 実装はそれぞれわずかに異なる結果を生成しました (相違点はハイライト表示しています)。

NetworkX

Louvain リファレンス実装

cuGraph

表 2 のコミュニティーの数のばらつきから、各パッケージが異なるコミュニティーを生成しているのは当然のことです。各パッケージで検出されたコミュニティーは、Girvan および Newman (2002 年、図 4b を参照) によって報告されたものとは完全に一致しませんが、「主観的に」妥当であると言えます。

まとめ

この実験の最初の目的は、cuGraph のような最適化されたライブラリーを NetworkX のような純粋な Python* ライブラリーと比較することの愚かさを示すことでした。C++ の Louvain リファレンス実装は、パフォーマンスの差を大幅に縮めましたが、コミュニティーの数に大きなばらつきがあることは、パフォーマンス以外の問題、例えば、各入力グラフの正しいコミュニティーは何か? 1 つの Louvain 実装が正しくて、それ以外は正しくないのか? があることを示唆しています。

広く研究されている Zachary ソーシャル・ネットワークでさえ、正しい結果を定義するのが困難なことから、「客観的な」明確に定義されたグラフ・アナリティクス・ベンチマークの重要性が浮き彫りになりました。Louvain アルゴリズムは、GAP Benchmark Suite にはないコミュニティー検出機能で GAP を拡張できますが、「その場しのぎの」パフォーマンス測定では十分ではありません。グラフ・アナリティクス・コミュニティーによって、合理的で再現性のあるテストが定義される必要があります。それまでは、意思決定にコミュニティー検出のパフォーマンスが重要な場合は、LDBC Graphalytics (英語) ベンチマークを使用することを推奨します。


[1] Blondel et al. (2008). “Fast unfolding of Communities in Large Networks,” J Stat Mech, P10008.

[2] このパッケージの詳細は、「Louvain method: Finding Communities in Large Networks」 (英語) を参照してください。リファレンス実装は並列化されていません。

[3] Girvan and Newman (2002). “Community Structure in Social and Biological Networks,” Proc Natl Acad Sci, 99(12), 7821-7826.

[4] cuGraph コードは、https://github.com/rapidsai/notebooks/blob/branch-0.11/cugraph/community/Louvain.ipynb (英語) から引用したものです。

[5] GPU: NVIDIA Tesla V100 with 16 GB HBM; System memory: 480 GB; Operating system: Ubuntu Linux release 4.15.0-1054-aws, kernel 56.x86_64; Software: RAPIDS v0.1.0 (downloaded and run November 2019).

[6] CPU: Intel® Xeon® Gold 6252 (2.1 GHz, 24 cores), HyperThreading enabled (48 virtual cores per socket); Memory: 384 GB Micron DDR4-2666; Operating system: Ubuntu Linux release 4.15.0-29, kernel 31.x86_64; Software: GNU g++ v7.4.0, NetworkX v2.3, community API v0.13, Louvain reference implementation (downloaded and run November 2019).

[7] For more complete information about performance and benchmark results, visit www.intel.com/benchmarks.

[8] Zachary (1977). “An Information Flow Model for Conflict and Fission in Small Groups,” J Anthropol Res, 33(4), 452-473.


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