この記事は 2025年7月2日に Codeplay のウェブサイトで公開された「SYCL 10th Anniversary」の日本語参考訳です。原文は更新される可能性があります。原文と翻訳文の内容が異なる場合は原文を優先してください。
SYCL は、開発者が多様なハードウェア・アーキテクチャーを活用できることを目標とした、オープンで標準ベースの抽象化レイヤーです。SYCL でアプリケーションを記述することで、複雑で時間のかかる移行作業や複数のソフトウェア・スタックを保守することなく、CPU、GPU、FPGA、あるいは革新的な新しい AI アクセラレーターなどのハードウェアで同時に実行できます。SYCL は C++ で実装されており、使いやすさを前提に設計されています。Khronos Group が SYCL 仕様を管理しており、SYCL ワーキンググループを通じて業界に協力を呼びかけています。
データセントリックなコンピューティングや AI アプリケーションの需要が進化する中で、互換性のあるソフトウェアの必要性はかつてないほど重要になっています。異なるベンダーから提供される多様なアーキテクチャーを持つハードウェアが混在する中で、開発者はハードウェアを中心としたコードの互換性や移行ではなく、アプリケーション自体の革新と開発に集中できる方法を必要としています。この方法を提供することが SYCL の目標であり、Codeplay では SYCL 誕生時からこれに取り組んできました。
Codeplay Software はビデオ・ゲーム・ツール会社として始まり、複雑なソフトウェアをグラフィックス・プロセッサー上で実行可能にするアイデアを開拓しました。当初は、よりエキサイティングなビデオ・ゲーム・グラフィックスの実現に取り組んでいましたが、開発者たちはこれらのツールを AI (当初はビデオゲーム内の AI) や科学アプリケーションにも活用し始めました。
誕生から多くの進歩を遂げてきた、SYCL の 10 年間の歴史を振り返ってみたいと思います。

CEO 兼共同創設者 Andrew Richards
SYCL 誕生から、私たちは本当に遠くまで来ました! SYCL が登場する前、ビデオゲーム開発者の間では、GPU を含む多種多様なハードウェアをサポートする高性能なコードを記述するため、多くの取り組みが行われていました。一般的な手法は、開発者が高性能かつ複雑なソフトウェアを作成できるように、C++ の高度な機能の一部を使用することでした。私たちはその経験をより幅広いソフトウェア開発者に提供したいと考えていましたが、高性能と複雑さの両方を可能にするこの能力を彼らがどのように活用するのか、想像もつきませんでした。その答えは、科学の新たな進歩と人工知能 (AI) の驚異的な飛躍でした。新しい AI テクノロジーを実現する上での C++ の重要性は過小評価されがちですが、中身を見てみると、すべてが実績のある基盤の上に構築されていることが分かります。イノベーターたちが想像力を解き放ち、未来の革新的なテクノロジーを構築できるよう、私たちが懸命に取り組んできたことを考えると、SYCL の未来にとてもワクワクしています。
Codeplay CTO Ruymen Reyes
開発者の作業負担を軽減する OpenCL 向けの高水準インターフェイスの構築に着手した当初、私たちの目標は開発者の生産性向上でした。しかし、GPU やその他のプラットフォームでコードや複雑なアプリケーションが高速化されるにつれて、この比較的控えめな目標が重要性を増していくのを驚きを持って見てきました。SYCL が広く採用され、NVIDIA、インテル、AMD のプラットフォームで使用できるベンダー・ニュートラルな標準規格として、開発者に選択の自由を与えていることを嬉しく思います。

Codeplay ソフトウェア・アーキテクト Gordon Brown
SYCL は、プログラマーがヘテロジニアス・アプリケーションを開発しやすくするため、OpenCL 向けの高水準プログラミング・モデルを作成するという控えめな目標から始まりました。それが今や、幅広いハードウェア・プラットフォームをサポートし、自動車や医療からハイパフォーマンス・コンピューティング (HPC) や AI に至るまで、多様な分野で利用されるまでに驚異的な発展を遂げました。
私が SYCL に初めて携わったのは 2012年で、当時はまだ OpenCL のハイレベルモデル (HLM) と呼ばれていました。Codeplay の Offloadコンパイラー技術をベースに Andrew Richards と Uwe Dolinsky が開発した最初のプロトタイプに取り組んでいました。ホワイトボードを囲んで API を設計したり、ホテルで深夜まで最初の仕様を書いたり、最初の批准投票の興奮を経験したり、カンファレンスやコンベンションに足を運び SYCL についての啓蒙活動を行い、試すよう奨励したりと、それはまさに長い道のりでした。長年にわたり、多くの人々が SYCL に貢献し、それぞれが独自のアイデアと独自の視点を持ち寄ることで、今日の SYCL が形作られました。
SYCL の将来は非常に有望です。複数のオープンソース実装とさまざまな業界での採用拡大により、エコシステムは急速に拡大しています。ベンダーや Khronos が魅力的な拡張機能を開発中であり、強力な機能が導入されることで、幅広いヘテロジニアス・プラットフォームで動作する生産的で高性能なアプリケーションの開発がさらに容易になります。
Codeplay チーフ・サイエンティスト Uwe Dolinski
SYCL が登場する前は、既存のツールではプログラミングが困難な新しい並列ハードウェアを活用するため、C++ ツールを開発していました。Playstation 3 向けに開発したコンパイラーとランタイム技術を応用し、OpenCL を介した高速化を実現する SYCL の最初のプロトタイプである OffloadCL を作成しました。これが、SYCL の初期標準化プロセスを形作ったのです。その後、ComputeCpp を最初の準拠ツールチェーンとしてリリースし、現在では DPC++ などのオープンソース実装も存在します。特に印象的だった SYCL プロジェクトは、電気自動車に搭載される商用バッテリー管理システムの複雑なモデルを高速化することでした。また、FPGA、そして最近では x86、Aarch64、RISC-V などの CPU にも SYCL を対応させ、公開されている CI でサポート状況を文書化しています。初期の頃から SYCL は大きく進化し、パフォーマンス向上のため、常に最新のハードウェアや API (NVIDIA 製を含む) を活用しています。ユーザーのニーズに応えて、安全性が重視されるシステム向けに SYCL SC が誕生しました。コア LLVM での SYCL サポートも着実に拡大しています。
Codeplay エコシステム担当副社長 Rod Burns
私が Codeplay に入社した約 9 年前、TOP500 リストに載っている GPU スーパーコンピューターはごくわずかで、GPU を用いたヘテロジニアス・プログラミングはまだ新しい概念でした。つまり、SYCL は HPC ソフトウェアに次世代のパフォーマンスをもたらす最先端技術を担っていたのです。長年にわたり、私は SYCL を使用するソフトウェア開発者のコミュニティーの一員として活動する機会に恵まれました。メンバーの多くが、特にエクサスケール・コンピューティング・プロジェクトを通じて、病気の予防と治療に関する重要な研究を加速するなど、幅広い分野で成果を上げるのに貢献しています。
Codeplay での 9 年間の大半は、https://sycl.tech (英語) のコンテンツのキュレーションに携わってきました。今では、動画やブログなど、多くの情報が提供されていることに驚きを隠せません。最近追加された機能の中で最もエキサイティングなのは、SYCL プレイグラウンドで、ウェブブラウザーで SYCL コードを学習し、記述することが可能です。
Codeplay のこれまでの活動から、いくつかハイライトを紹介します。次の 10 年が楽しみです!
- SC16 (英語) と SC17 (英語) で SYCL を発表
- 2018年に ComputeCpp が SYCL 1.2.1 に準拠 (英語)
- 2017年に SYCL Academy が設立され、現在では世界中で利用 (英語)
- Codeplay が SYCL を使用する Perlmutter スーパーコンピューターで NERSC とのパートナーシップを発表 (英語)
- Codeplay が DPC++コンパイラー向けの NVIDIA および AMD プラグインをリリース (英語)
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